Update: 2013/8/10
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35  玉ネギ 2
 
 
2012.01.01
玉ネギは 縛られて軒下に吊るされていた
たまねぎは夏の暑さに耐えられずに内面から腐り始めていく
黄土色の皮からぶにょぶにょの汁がたれ落ちている
やがてしかるべき時がきて内面から腐った玉ネギは
コンクリートの通路に叩き落ちる
帰宅した少年に蹴られて惨めに踏みつけられても
縛れて軒下に吊るされた仲間の玉ネギ達はなす術もない
 
玉ネギは縛られて軒下に吊るされていた
夏の盛りのある日
女はそのうちの一つを引きちぎってキッチンへ運んでいく
玉ネギは薄くシャリシャリの黄土色の皮を引き剥がされて
白く美しい肌をあらわにした
 
私は白いまな板に丸く留め置かれた一つの玉ネギ
私が言葉を持たぬことが
私が内面を持たぬことではないのだと
自らの辛さと 甘みと 水分と 汚れなき白を
幾重にも幾重にも巻きつけながら生きてきて
今 私は完全な玉ネギになった
 
玉ネギは縛られて軒下に吊るされていた
長く暑かった夏の終わりの日
女は最後の一つを引きちぎってキッチンへ運んでいく
玉ネギは堅く張り付いた黄土色の皮を引き剥がされて
白く美しい肌をあらわにした
 
私は白いまな板に丸く留め置かれた一つの玉ネギ
私は自らの丸い曲線を問い 自らの辛さを問い 自らの甘みを問い 自らの白い肌を問い
土の温かみの中 自らを埋め 根を張り 水を吸収し 太陽の下
今 私は完全な玉ネギになった
 
私は白いまな板に丸く留め置かれた一つのたまねぎ
玉ネギは 剥かれても剥かれても 白く美しい肌をあらわにして
私は 玉ネギなんだと主張し続けた
 
 
 
 




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