Update: 2013/8/10
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36  玉ネギ 1
 
 
2011.12.16
僕は ただ一つの玉ネギとして暗く冷たい倉庫の中 古びた木箱の中で待ち続けていた
 
トラクターや ラメのリボンがはがれ無残なフラフープや 蹴り入れられた
サッカーボールと一緒に 暗く冷たい倉庫の中
その一番奥の古びた木箱の中 僕は ただ一つの玉ネギとして待ち続けていた
 
僕たちは ただ一つづつの玉ネギとして古びた木箱の中で
仲間達と 身をよせていた
 
隣の木箱の中では ただ一つ入れられた赤いリンゴを奪い合っている 
泥にまみれたジャガイモ達が 
自らの毒の芽をおしとどめられもせず
まだ赤く美しかったリンゴが赤みを失くし老いていくのを
誰にも止められず
木箱の中で 泥にまみれたジャガイモ達の自らの毒の芽が
少しずつ伸びていく
 
暗く冷たい倉庫の中  古びた木箱の中で
玉ネギは、夢見ていた
僕はいつかオニオンリングになりたい
僕は縦には切られたくはない 僕は僕の内面まで二つに引き裂かれたくはない 僕は僕の内面を残したまま輪切りにされて
たっぷりの旨みのついた衣をまとい
揚げたてのオニオンリングになりたい そして「フーフー」しながら
頬張る君の笑顔が見たい
僕は君の笑顔が見たい 
僕を美味しく食べる君の笑顔が見たい
 
明日 僕は木箱から持ち出され 白いまな板の上で切り刻まれ みじんにされ
フライパンの中 強火で炒められ ひき肉と一緒にミートソースの中
溶けてしまうかもしれない 
明日 ソースの中で 僕は理不尽に失われて行くかも知れない
 
僕は ただ一つの玉ネギとして暗く冷たい倉庫の中 古びた木箱の中で
待ち続けていた
明日 理不尽な奴に 理不尽な方法で 理不尽に失われるかもしれないとしても
僕は僕がただ一つの玉ネギとして何者になるかは
僕が決める
僕は僕がただ一つの玉ネギとして最後にどんな風に失われていくかは
僕が決める
 
僕は僕の内面を幾重にも幾重にもまとい さらに自分の外側を自ら枯らし
黄土色になった皮で自らを固め
自らの内面を守りたい 
僕はただ一つの玉ネギとして僕の内面を守りたい
僕はただ一つの玉ネギとして僕の内面を守り抜きたい
 




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