Update: 2013/8/10
作品



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32  卒業
 
 
2012.01.08
6年間もあるから こんなにも早くこの日がくるなんて  思ってなかった
12月になってからは あと何日と 残りの月ばかり 数えるようになった
あと何ヶ月みんなとこの教室にいれるのか
先生は始めに やる前から出来ないとは決していわないように と言った
やってみて 出来ないことはあるかもしれない 
それでもとにかくやってみてほしい と先生は言った
 
6年間もあるから こんなにも早くこの日がくるなんて 思ってなかった
3月になってからは あと何日と残りの数ばかりを数えるようになった
あと何日みんなとこの教室にいれるのか
あと何日黒いランドセルをからえるのか
まだ若く綺麗な二人の先生は 初めて6年生の担任をするから
みんなは私達にとって特別な卒業児になると 言った
中学生になっても 何人かは別の中学に行っても みんなは 何処に出しても 
恥ずかしくない 自慢の卒業児だと 言ってくれた
 
足が閊えて窮屈な机と 背中のはみ出した椅子
オレンジ色の引き出しと同色の仕切り板
黒いランドセルと ジャラジャラとぶら下げた キーホルダー達
首から提げた防犯ベル 
給食着と 体操服と赤白帽子
何度もめくった赤線だらけの教科書 
貼り付けたプリントで膨れた5mm方眼ノート
先生が週末配布する時間割付き学級便り 冷蔵庫に貼り付けた給食の献立表 
黒板と白いチョウク 中廊下と軋む床板
がたつく窓さえも 何故こんなにも愛おしいのだろう
 
校庭の楠の大木は ずっと僕達のシンボルだった
楠の木を取り囲むように 高く盛られた石垣に
ただ登ったり飛び下りたりを 僕達は何度も何度も繰り返した
まだ石垣に登れない 1年生のお尻を持ち上げて登らせてあげた
かつての6年生が 1年生だった僕にそうしてくれたように
校庭の楠の大木は ずっと僕達のシンボルだった
楠の大木の真下によじ登り 僕達は校庭を見ていた
楠の大木の真下で振り返り 6年間過ごした校舎を見上げた
 
濃縮された6年間を いつもいつも君達は笑顔で
一つ一つひたむきに取り組んできた
中休みのドッジボールとサッカー
体育館のバスケットゴールと 白いバレーボール
石の滑り台と鉄棒
中休み それぞれのお気に入りの文具で揃えた互いの筆箱を見せ合い
繰り返した 他愛無い女の子達のおしゃべり
長方形の箱の中に 好きなものを詰めた いくつもの愛しい筆箱たち
 
水泳記録会 それぞれの型で泳いだ 50M
6年生の僕達の運動会として 全員で取り組み成功させた最後の運動会
全員でやり遂げた 君達の笑顔を忘れない
合唱祭と器楽祭 卒業間近に先生が用意してくれた 音楽の授業参観
音楽室で先生のピアノに合わせた 全員のソプラノリコーダーと鍵盤ハーモニカ
このクラスのみんなでいることが どんなにかけがえがないことか
残りの時間が少なくなってゆく日々の中で このクラスのみんなでいることが 
こんなにもかけがえがないことを 僕達はかみしめながら演奏し続けた
 
2月のマラソン大会 誰よりも大きな声で キャーキャー 言いながら
僕達の名前を一人一人呼びながら 最後の一人まで 応援していた 
あの若く綺麗な二人の先生を 僕達は忘れない
二人があまりにも熱心に 大声で僕達の名を呼んでいるから 
他校の保護者から注目され笑われていても そんな事全然構わないで
最後の一人まで応援し続ける 若く綺麗な二人の先生を僕達は決して忘れない
 
1年の初まりに毎年書いた 短冊6枚の夢が 君達の6年分の夢が
いつか叶いますように
途中夢が変わった子も 6年間変わらない夢の子も 
いつか君達の夢が叶いますように
なりたい自分になれるように君達が努力を惜しみませんように
 
6年間もあったから 君が小学生でなくなることが
こんなにも私をかき乱すなんて思いもしなかった
明日から下校する 子供達のランドセルの黒い背中に 
ふっと君を探すかもしれない
すりガラスのドアから 君がまだ幼さの残るはにかんだ笑顔を見せ 
ぶっきらぼうに ただいま とドアを開け 玄関に黒いランドセルを放置し 
スパイクを持って 練習に出かけて行くんじゃないかって
私はふっと すりガラスのドアの向こうに 小学生の君を探すだろう
 
卒業式の日 校長先生は始めに 本当は君達におめでとうと言ってあげたい
けど 言ってあげられないことをお詫びします と言った
君達と同じように祝ってもらうはずだった 6年生の卒業式が出来ないでいる
君達と同じ小学生が 家族とはぐれ 家を失くし 失われた町で 
3月11日からを 必至で生きている
瓦礫に埋もれた学校は 再開のめども立たない
避難所になった学校で 普通に通うはずだった学校で 
寒く不安な夜を過ごしている
君達は 東日本大震災の起こった年の3月に 小学校を卒業する
濃縮された6年間を いつもいつも君達は 
笑顔でひとつひとつひたむきに取り組んできた
君達は決して笑顔を絶やさなかった
どんな時も仲間と笑顔で乗り越えてきた
卒業式の日 君達はひとりひとり名前を呼ばれ 返事をし 壇上に上り 礼をし 卒業証書を受け取った
 
最後にステージの袖で ひとりひとり名前と将来の夢を語った
どうか君達の夢が 叶いますように
そのための努力を君達が 決して 決して 惜しみませんように
 
2011.3.17.僕達の卒業の日
 
 
 
 
 




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