Update: 2013/8/10
作品



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30  雪2
 
 
2012.01.26
正午前から降り始めた雪は 冬の風に吹かれ
積もりもせず 降り止みもせず ひらひらと降り続けている
道路に面するベランダの上 干された洗濯物に 雪は降るだろう
その洗濯物の足元に座り込み 煙草を吸う
若い男性の吐く煙に 雪は降るだろう
玄関前に並べられたプランターの色とりどりの パンジーに 雪は降るだろう
冬に枯れた痩せた木々の色のない通り
パンジーの色だけが鮮やかだ
かつて電気を流され温められたコーヒー飲料の 飲み干され 
投げ捨てられた スチール缶に 雪は降るだろう
カラカラと転がる冷え切ったスチール缶に 雪は降るだろう
新しい年になっても 進展しない国の
南の町の 縮小する暮らしに 雪は降るだろう
この場所の今日一日分の雪を 全部降らせてしまえと 雪は降るだろう
積もりもせず 降り止みもせず 雪は降るだろう
 
大学病院の正面玄関に 横付けされたバスに 雪は降るだろう
そのバスに乗り込む人々の ダウンコートに 雪は降るだろう
注射も 検査も 薬も 全部嫌だと 泣いている男の子に
なだめ言い聞かせる若い母親に 雪は降るだろう
そこだけに陽が差し込む広く長い渡り廊下に
その先の精神病棟の重い扉に 雪は降るだろう
採血ルームの注射針に 待合室の長いすに 雪は降るだろう
乾燥した皮膚病の子供の肌に
画像診断される病巣に
固定されたギブスの中の骨折した右足に 雪は降るだろう
受付から会計までシステム化された 自動会計機の後ろ
控えめに待機する 事務の女性が 
機械に戸惑う人に「ここにバーコードをかざして下さい」と声をかけてくれる
正面玄関の外 降り止まない雪の中
警備員のおじさんは
バスが来れば「バスが来ましたよ」と
タクシーが来れば「タクシーが着きましたよ」と
自家用車が来れば「お迎えですよ」と
車を誘導しながら声をかけてくれる
そのひたむきに積み上げられる仕事に 雪は降るだろう
最先端医療機器に
最前線医療従事者に
救いたい命に 雪は降るだろう
ひたむきに向き合う命に 雪は降るだろう
 
午後16:00を過ぎて 雪は さらに冷え込んだ冬の風に吹かれ
積もりもせず 降り止みもせず ひらひらと降り続けている
帰宅する小学生のチェリーピンクのランドセルに
中学生の自転車の列 赤いラインのヘルメットに
家へ帰る車の中 君の一日の労働に 雪は降るだろう
明日の厳しい君の仕事に 雪は降るだろう
君の眠れない夜に
キリキリと痛み出す胃に 雪は降るだろう
足りないコミニュケーションに 雪は降るだろう
君の弱さに 雪は降るだろう
君の怖れに 雪は降るだろう
君が守りたい暮らしに 雪は降るだろう
君が守りたい人に 雪は降るだろう
新しい年になっても 進展しない国の
南の町の 縮小する暮らしに雪は降るだろう
この場所の今日一日分の雪を 全部降らせてしまえと 雪は降るだろう
積もりもせず 降り止みもせず 雪は降るだろう




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