Update: 2013/8/10
作品



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25  3月
 
 
2012.04.24
彼女は車を走らせ続ける 川沿いに続く土手
3月の黄色の菜の花を見つめながら 
ギリギリで大型トラックとすれ違い 
彼女は車を走らせ続ける
道の真ん中うずくまる子猫が 
道路端まで渡りつくのを彼女は待っていた
対向する先頭車両も子猫が渡るのを待っている 無人の交差点
子猫は必至で渡っている あまりにも小さな子猫を
彼女はたまらなく愛おしく想いながら見つめていた
次の横断歩道で歩行者と自転車を待ってから
彼女は左折するだろう
その向こうに巨大病院は広がっているだろう
病と不安な精神が固定され並べられた数百の椅子に腰掛け
順番を待っているだろう
ここにもひとり 付き添いのない病と孤独が押し黙り
電光掲示板を見上げ順番を待っているだろう
 
3月の優しい陽射しの正午過ぎ 春休み中の子供達は
自転車で連なりもう何処かへ遊びに行っているだろう
学童の子供達は遠足で出かけた先の芝生の上 
配られたおにぎり弁当を頬張り笑っているだろう
おばちゃんはレジ袋一杯に採ったつくしを
新聞紙に広げ はかまを取り続けているだろう
逆剥けだらけの指先を真っ黒にして
おばちゃんははかまを取り続けるだろう
夕刻 つくしは卵ととじられ 3月の食卓に並べられるだろう
 
 




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