Update: 2013/8/10
作品



prev. index next

18  シンボルツリー
 
 
2012.08.12
樹齢100年以上といわれる楠木は
2階建て木造校舎を越え
大いなる緑の葉を空いっぱいに広げ
その圧倒的な生命の強さを7月の晴天に突き付けていた
 
父さんは旅に出たんだ
女の子は僕にだけこっそり教えてくれる
本当は旅ではなく離婚して父さんが家を出たんだ
女の子は何でもない事のように笑っている
 
昨日は遊んで遅く帰ったけど
ママの彼氏が来てたから
とにかくママの機嫌がよくて 私怒られずに済んだんだ
週明け 女の子の苗字が変わる
新しいパパと一緒に暮らす
私 あの人のこと 何て呼んだらいいかまだ分からない
 
祖父の果樹園の手伝いと祖母とママの不和
ママの苛立ちと孤独を全身に浴びて着席する
ママの仕事とストレス ママ達のPTAと役員選考 ママのママ友と男友達
女の子は真っ直ぐに伸ばした長い髪を休み時間になって結び上げた
 
サッカー部のエースからもらった呼び捨て許可
僕がほとんどの友達を呼び捨て出来るようになった小6の夏
ママは僕を許すだろうか
レギュラーになれなかった僕を許すだろうか
練習が終わって夜の闇に見失ったボールを
簡易投光器の明かりの内と外
僕達は必死で探した
夜の闇に見失った最後の一球を僕達は必死で探した
 
ママは何でも話しなさいと言った
いい事も悪い事も何でも話しなさいと言った
ママは僕を許すだろうか
出来ない僕を許すだろうか
僕のウソを許すだろうか
言えない僕を許すだろうか
担任と保護者からの苦情の電話
若くて綺麗なママの顔がきつく変わる
ママは僕の話を聞いてくれるのかな
ママは僕を許すだろうか
 
あなたの意見は何ですか
あなたはそれをどう思いましたか
あなたの目標は何ですか
どんな型でもいいからとにかく25M立たずに泳ぎきってみて
プールサイド担任の大きな声援が響く
 
シンボルツリー シンボルツリー
僕達のシンボルツリー
ただそこにあるだけで圧倒的な強さを持つ大いなる緑の生命の木
僕は大人になったらそんなふうになりたい
 
男の子は背中から大きくはみ出した黒いランドセルを背負って
市営団地から学校へと続く道を
ママが仕事に出かけた後
とっくに始業時間を過ぎたころ
うつむきながら学校へと向かう
その小さなうつむく視線を追い越して
私は職場へと向かう
バックミラーの中うつむく男の子の小さな背中が見えなくなるまで見送った
 
 
 




ホーム 自己紹介 作品 過去作品 日記 リンク集 掲示板


inserted by FC2 system