Update: 2013/8/10
作品



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17  8月
 
 
2012.09.02
8月のトンボ達がその短い生涯の終わりを
一心不乱に飛び続けていた夕暮れ
キャップを目深に被った女の子達は
日焼けした顔から流れる汗を 首に垂らしたタオルで受けながら
運動場から体育館へと もう何周も走り込んでいた
黒い電光掲示板 点滅する赤い数字が 百分の一秒迄刻み続けている
最後の女の子が自分のタイムを記録した後
体育館から 床を打ち付けるドリブル音が聞こえてくる
 
増築した第2学童 駐車場に面した窓
閉所時間 間際の子供達は
迎えに来たママに
まだ遠くのママに
ニコニコと手を振っている
空の弁当箱と水筒と宿題の入った布バッグの中
こっそり持ち込んで 交換したシール帳とメモ紙
本当はママに見てほしかったけれど
ママにかわいいねって 言ってほしかったけれど
言えなかった 沈黙の後部座席
 
8月のセミ達が その短い生涯を 一斉にジンジンと鳴き続け
校庭の木の枝に 必死にしがみついていた午後
男の子の虫とりアミにひっかかった8月のセミが
ジタバタとアミを揺すり 動いてはみたけれど
男の子の小さな手によってつかみ上げられ
放り込まれた 虫かごの中 
男の子の熱い視線の先 
やがて動かなくなった8月のセミの終わり
 
あんなにたくさんあるはずだった夏が
40数日の待ち焦がれた夏が
これまでも こんなふうに 夏は 何度でも 終わってきたんだけれど
 
8月のひまわりは 太陽に向かって 美しく咲いた自分が
失いつつある 花の終わりに
もう手を懸けてもらうこともなく
何かを与えられることもなく
引き延ばすこともせず
自分から求めもせず
強くも 若くも 美しくもなくなった
自分に向き合い続けた
道端で 茶色く うなだれる 8月のひまわり
 
 




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